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佐野眞一『別海から来た女』( 講談社)
 本書は2012年5月25日に講談社から刊行された。首都圏連続不審死事件の犯人である北海道の別海町出身の木嶋佳苗に関するルポルタージュで、副題は、「木嶋佳苗 悪魔祓いの百日裁判」である。
 裁判の傍聴に関する記述そのものはそれ程多くはない。むしろ、木嶋佳苗という婚活詐欺にからむ複数殺人などの容疑で死刑判決を受けた詐欺師・殺人鬼がどのような環境の中で育ってきたのか、佐野眞一は自ら現地に足を運んで、地道な取材を重ねて、それを探り出していく。
 木嶋佳苗は、小学生の頃からすでに体格もよく体の成熟も早かったようだ。
 実家は、司法書士・行政書士を営み、別海町ではどちらかというと生活水準が高く文化的な雰囲気に溢れた家庭であった。家にはピアノもあり、佳苗も母親からピアノを教わっていた。そんなことから佳苗は同級生たちからはお嬢さんとみられていたようだ。木嶋佳苗も、周囲に対してやや見下したような態度をとっていた。
 別海高校のアルバムに残された自筆の達筆な自己紹介文の中にある「嫌いなタイプ: 不潔・貧乏・バカ」という言葉には田舎町での佳苗の剥き出しのエリート意識が透けてみえる。
 他方で、同級生たちは佳苗の別な面も捉えていた。アルバムには同級生たちがとったさまざまなアンケートの結果が載っている。そこで、とくに目を惹くのが、将来「早く結婚しそうな人」で三位、「不倫しそうな人」で二位、「子だくさんになりそうな人」と「アダルトビデオに出そうな人」で一位となっているという佳苗の結果だ。
 ここには、エリートで高慢ちきで太った不細工の佳苗に対する同級生たちのどこか屈折した思いがみてとれるが、他方で、自分たちとは違うどこか大人びた隠微な雰囲気を纏っていた佳苗の姿を浮かび挙がらせてくれているともいえる。
 また、取材で分かったことであるが、後の佳苗の行動にもつながるのではないかと考えられるものがある。それは、佳苗の祖父の証言から得られた。父方の祖父は、佳苗の手癖の悪さを心配していたという。佳苗は、小学生の頃に母親が通っていたピアノの先生の自宅からなんと預金通帳を盗んだというのだ。その事件は、警察沙汰になったが、町長の力添えもあってなんとか表沙汰にはならなかったようだ。
 また、父親は、佳苗が逮捕される五年前に交通事故で亡くなっているのだが、警察は事故か自殺かどちらとも断定していないという。
 この事故が起こる二年生ほど前に、佳苗はネット上オークションの詐欺で警察に逮捕されている。それを知った父親は相当ショックを受けていて、それが自殺説にも繋がっているようだ。
 この詐欺事件は、佳苗が北海道から東京へ出てきてからちょうど十年目にあたる二〇〇三年五月のことであった。それから六年後の二〇〇九年秋に、佳苗は複数(三人)殺人容疑で、次々と逮捕されることになり、裁判の結果、二〇一二年四月に第一審判決で死刑判決が出され、その後控訴審を経て、二〇一七年四月に最高裁で死刑判決が確定した。
 二〇一五年二月には小説『礼讃』(KADOKAWA)を出版している。また、二〇二四年現在、死刑囚として収監中であるが、これまでに獄中結婚を三回繰り返している。
 
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