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橋本健二『新・日本の階級社会』(講談社現代新書)
 著者は早稲田大学で理論社会学を教えている。彼の認識では現代の日本社会は「格差社会」などという生ぬるい言葉で形容すべきではなく明らかに「階級社会」である、という。階級とは「収入や生活程度、生活の仕方や意識の違いによって分け隔てられたいくつかの種類の人々の集まり」であり、その各階級の違いが大きな意味を持つようになった社会を「階級社会」という。
 つまり生活程度の格差が拡大し続けた結果、その拡大した格差が社会に根を下ろし、人々の間に分断をもたらしているというわけだ。
 著者は、主として社会調査のデータ分析を通じて国民各層(階級)の生活意識や政治意識のを特徴を明らかにしようとする。そこで、まず現代の日本社会における階級はどのようになっているのか。著者によれば日本の階級構成の基本は、資本家階級(経営者・役員)、新中間階級(被雇用の管理職・専門職・上級事務職など)、労働者階級(被雇用の単純事務職・販売職・サービス職・マニュアル労働者など)、旧中間階級(自営業・農家・家族従業者など)の4つから成り立っているが、労働者階級の内部において正規労働者と非正規労働者の格差が拡大した結果、労働者階級は事実上正規労働者とアンダークラスという二つの階級に分化してしまっているので、5つの階級が存在していることになる。
 「平成24年就業構造基本調査」によればそれぞれの階級の全就業者に占める割合は資本家階級4.1%、新中間階級20.6%、正規労働者35.1%、アンダークラス14.9% 、旧中間階級 12.9%となっている。ちなみに、資本家階級の場合は従業員5人以上の会社経営者で、5人未満ならば旧中間階級となる。
 このうち資本家階級と労働者階級は1985年あたりまでは世襲率が弱まったが、その後再び世襲率が高まる傾向がある。つまり階級の固定化がこの二つの階級ではみられる。ただ新中間階級では子供が親の職業につける割合がやや低下しているが、それは実は就職氷河期を経験した新中間階級出身のロスジェネレーション世代の若者のかなりの割合が新中間階級になれなかったことが影響している。
 ところで、21世紀に入って若者の保守化が指摘されるようになったが、確かに30代以下の自民党支持率が概ね上昇傾向にあることは間違いない。こうした保守化傾向の若者のたちは排外主義的傾向も強めているかというと、必ずしもそうではないようだ。排外主義的傾向は40代、50代の高い年齢層で強くなっていて、20代ではむしろ他の年齢層より弱い。また、アンダークラスなどの下層の若者が排外主義を強めている指摘も必ずしもあたっていない。よく言われるネット右翼も実はその大半はホワイトカラーや自営業が多く下層の割合は低いと見られる。
 ただアンダークラスの人々が社会に対する不満を蓄積させていることは明らかであり、彼らがその不満を誤爆させる可能性は高くなっている。そしてそれが排外主義と結びつく危険性もある、と著者はいう。
 アンダークラスの人々が社会の不安定要素となっているのはどうやら日本だけではなく、世界的傾向のようだ。イギリスでは彼らは「チャヴ」と呼ばれ、いわば社会的差別を強いられている。日本ではあからさまな差別とまではいかないが、「自己責任」の名で語られるように、貧困層への締め付けはじわりじわりと進み、彼らを社会の片隅に追いやりつつある。
 著者は、それゆえ政策として社会的再配分を強化し、格差の是正を進めることが必要である、と説く。最近よく言及されるベーシックインカムなども検討に値する。的確な政策を動員して所得格差の縮小に取り組むことはより安全で暮らし易い社会を造るうえで欠かせないことである。
   
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