2016年2月11日に報じられた「重力波検出」のニュースは世界を駈け巡り、大きな衝撃を与えた。それがアインシュタインの残した宿題であったという事実とともに。 この本が出版されたのは、2016年6月だからそのニュースからわずか4か月しか経っていないが、著者はこの重力波研究の中心を担ったカリフォルニア工科大学のキップ・ソーン教授とMITのレイ・ワイス教授へのインタビューとLIGO(レーザー干渉形型重力波観測所)のワシントン州ハンホードとルイジアナ州リヴィングストンの2か所に設置されている観測所の実地調査などを踏まえて、彼らの研究と重力波検出までの歩みをまとめたものである。著者自身もコロンビア大学バーナードカレッジの物理学・天文学の教授でもあるが、作家としても活躍されていて、これは研究解説書というよりもそれに携わった研究者たちの人間ドラマを描いたドキュメンタリーとなっている。 重力波検出に向けたLIGOのチームは上記の二人に加えロン・トレーヴァーというスコットランド出身の学者の3人からなるトロイカ体制で続けられてきたが、この3人の計画が初めて日の目をみたのは1983年のことで、資金面はワシントンの国立科学財団(NSF)がサポートした。しかし、この3人の息は必ずしも合っていたわけではない。それぞれの科学者としてのこれまでの歩みを踏まえながら、彼らの苦労と確執を迫力をもって描き出している。 残念ながら、昨年2月の段階ではトレーヴァーはこのチームのメンバーから離れていたが、彼の貢献なくして今回の重力波検出も実現をみなかっただろう。 重力波の検出というまるで雲を掴むような話にその情熱を注いだ個性溢れる研究者たちの生き様には確かに心を打たれるものがある。それは、莫大な資金を注ぎ込んで果たして結果を出せなかったら、という恐怖と背中合わせの闘いでもあるのだ。 しかし、今回の検出は決して単なるラッキーだけではない。もちろん、アインシュタイン生誕100年に合わせるかのごとく、この「検出」にたどり着いたのは確かにラッキーではあったが、それに向けて着実に地歩を築き上げてきた彼ら3人を始めとしておよそ1000人にもおよぶ各国の科学者たちの努力と根気がなければ、そのラッキーは訪れなかったに違いないのだから。 今回2015年9月14日に観測された重力波はなんと14億光年かなたからやってきた。それは太陽の29倍と36倍からなるブラックホール連星の合体によるものであった、という。観測された重力波の信号はわずか200ミリ秒で、4キロの検出器の2本のアームに生じたズレは陽子の約1万分の1という極小の変化でしかなかったが、確かにこの変化を検出器はデータとして記録していたのである。検出から約5か月間、データの解析に多くの研究者たちが関わり、多くの精査を踏まえたうえで、反証の余地がほぼないものとして、昨年2月に発表されたのである。 その感動をあらためてこの本を読んで味わうことができた。このニュースは、アインシュタインの相対性理論と宇宙に対する関心を目覚めさせてくれたものであったのだから。
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