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村山斉『宇宙はなぜこんなにうまくできているのか』
(集英社インターナショナル)
 著者はテレビでもお馴染みの東大数物連携宇宙研究機構長の村山斉先生。さすがにわかり安い説明で、とても読みやすかった。ただ、出版されたのは2012年で、近年宇宙研究のスピードはすさまじく今では多少物足りないところもある。
 アインシュタインの重力理論については、とても分かりやすい説明がされていて、納得ができた。「重力は空間を歪ませる」という考えは、ちょうど網の上にボールを乗せた時に、ボールがあるところがへこむ状態をイメージすると分かりやすい、という。その網の上に別のボールを置くとボールは凹んだ方に近づいてゆくのである。これが重力によって互いが引きつけ合っているようにみえるというわけだ。
 
 ビッグバン理論の提唱者と見られているジョージ・ガモフは「宇宙の始まりは超高温・高密度の火の玉だった」といい、その時の残り火のような電波が今でも宇宙全体に残っているはずと説いた。それが、宇宙マイクロ波背景放射だが、ガモフから約30年後の1978年に、二人の研究者によってこの宇宙マイクロ波背景放射が観測によって確認された。すでにガモフは残念ながら10年前に亡くなっていたのだが。
 
 4つの力についての説明も分かりやすい。4つの力とは、「強い力」「弱い力」「電磁力」「重力」のことで、これらの力を伝えるものが素粒子の一つである「ボソン」で、「強い力」はグルーオン、「弱い力」はウィークボソンで、「電磁力」は光子、「重力」はグラビトン、という。このうちグラビトンはまだ発見されていないが、他の3つはその存在が確認されている。「強い力」とは原子核がバラバラにならないように働く力のことで、原子核のなかの陽子と中性子を結びつけるとともに、陽子や中性子のなかにあるクォーク同士を結びつけてもいる。さらに、「弱い力」は、原子核の崩壊を引き起こす力のことで、例えば中性子が壊れて陽子になるときに電子とニュートリノを放出するが、それを引き起こすのが、「弱い力」のウイークボソンである。「電磁力」は光や電磁波を伝える素粒子で光子という。これは粒子であるとともに、波動をもつ。この特殊な性質をもつ光子の研究から量子理論が生まれてきた。
 重力子はあまりにも弱いため、その存在は確認されていない。
 
 また、物質と反物質というものがあることも教えられた。例えば、電子はマイナス電荷であるが、プラス電荷をもつ陽電子というものが存在しているという。しかし、この電子と陽電子は出会うとエネルギーを出しながら消滅してしまうそうだ。これを対消滅という。実験室の中などで、人工的にこのような反物質を作り出すことは可能だが、自然界には存在していないという。ビッグバンの時に大量に放出された反物質は、物質と出会って消滅しまったらしい。
 しかし、物質の方が少しだけ多かったので、現在のような宇宙世界が生まれたのだ!本来、物質と反物質は生まれる時も対生成といい、同時に生まれる。そして対消滅する運命なのだが、どいうわけかごくわずかな差が生まれて物質世界が誕生したという。その謎はまだ溶けていない。
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