あらすじ

ネートチカ・ネズワーノワは、2歳の時に父が亡くなり、その後母が再婚したのはイェフィーモフという音楽家だった。このイェフィーモフは、ネートチカの母親が遺産として受け取った千ルーブリの金を当て込んで彼女と結婚したのであったが、結局その金もまたたくうちに使い果たして、家族は貧乏にあえいでいた。しかし、イェフィーモフはこつこつ働くどころか自分は音楽の天才だと称して自尊心ばかりが強く、オーケストラの楽士たちともすぐにトラブルを起こして、ろくな仕事にもつかず結局妻の細腕にすがりついているというありさまだった。 イェフィーモフはもともとある地主のオーケストラのクラリネット奏者だったが、ある時からイタリア人の指揮者と仲良くなり、しばらく親しくしていたが、突然その指揮者が亡くなり、彼にバイオリンを遺してくれた。そのうえ彼はその指揮者からバイオリンを教わったらしくいつのまにかバイオリンの腕前は驚くほどのものになっていたのである。 やがて、彼は自分の力を世間に示すにはペテルブルグに出るしかないと思い、やっとのことでペテルブルグに出て、そこでBという男と知り合う。Bはまじめで、ひたむきに自分の目標に向かって進んでいくタイプであったが、イェフィーモフの方はすでに若さを失い、目標すらも見失ってしまっているのであった。ただ、自分は音楽の天才であるというむなしい幻想、自己満足におぼれているだけにすぎなかった。やがてイェフィーモフは飲酒に耽るようになり、バイオリンもしばらく手にすることもなく、次第に落ちぶれていった。そのうえBとも喧嘩して、彼に紹介されて入ったオーケストラも追い出されてしまったのである。ちょうど結婚して2年半の頃で、ネートチカは4歳半だった。それから長い間イェフィーモフは、職にもつかず妻に頼って細々と暮らしをしていた。
ネートチカの物心がついたのは10歳の頃であった。ネートチカは家では母に怒鳴られ、虐げられている継父のことが可哀想な受難者のように思え、いつしか継父のことを愛おしく思うようになっていた。彼女は自分の家の悲劇をすべて母のせいだとすら考えたのである。継父を喜ばせるためならなんだって彼女はするつもりだった。 ある時Sというバイオリニストの演奏会の切符を手に入れるため、母親の給料の25ルーブリから15ルーブリをくすねて継父に渡そうとしたことすらあった。結局それは失敗したのだが、継父はBのとりなしもあって音楽好きの公爵から演奏会の招待状を受け取りその演奏会へ行くことができた。 しかし、その演奏会へ行ったことによって結局継父イェフィーモフは破局へと導かれていったのであった。継父が演奏会から帰ってきたその夜に母は亡くなった。イェフィーモフは妻の霊前でバイオリンを弾くと、彼女を置いたまま娘とともに家をあとにした。しかし、娘は途中で母のところに戻ろうとするが、イェフィーモフはそのまま戻って来なかった。彼は天才Sの演奏を聴いて自分の身の程を思い知らせれ、永遠に息の根を止められてしまったのである。母の死によってもはや彼を縛るものは何もなくなり彼は自由となり、自分で自分を裁こうとしたのであった。
ネートチカは、父の後ろ姿を追いかけながら、失神して倒れた。気がついた時には柔らかいベッドの上であった。ネートチカが倒れたのは音楽好きの公爵邸の前で、貧乏楽士イェフィーモフの娘であることを知った公爵はその偶然の不思議さに心を打たれその娘を自分の子供達と一緒に育てようと考えたのである。継父イェフィーモフは結局あの直後に発狂し、病院に送られ二日後に亡くなったことをネートチカは知らされた。 しばらくしてネートチカは元気を取り戻し、モスクワからやってきた公爵の娘カーチャと生活をともにすることになる。ネートチカは、初めて会った瞬間からカーチャのうっとりするような美しさに心を奪われてしまった。はじめのうちカーチャはネートチカに戸惑っていたが、やがてネートチカの思いを受け止め二人はお互いを好きになっていった。しかし、二人のあまりの親密ぶりを心配した公爵は、やがて二人を遠ざけることにした。カーチャは再びモスクワの公爵家へ移され、二人は別れることになったのである
ネートチカは、その後公爵夫人の先夫との間に生まれた娘アレクサンドラ・ミハイロヴナの家に引き取られることになる。アレクサンドラ・ミハイロヴナは財産もあり立派な官等のピョートル・アレクサンドロヴィッチという男と結婚していたが、その生活はどこか修道女のような沈んだものであった。彼女と夫の関係もなにかぎくしゃくしたものが感じられた。 ネートチカは、この家の養女となりここで8年間過ごすことになる。アレクサンドラ・ミハイロヴナは、やがて夫との間に二人の子供を設けるが、彼女は自分の子供とネートチカを差別したりすることはまったくなく、娘として存分に愛してくれたのである。ネートチカは、その家でしっかりとした教育を授けられるが、やがて彼女はこの家の図書室から密かに本を持ち出して本の世界にどっぷりと浸かり、空想と幻想の世界に思い切り羽ばたいていった。 しかし、偶然本の間に挟まれた手紙、それはアレクサンドラ・ミハイロヴナに宛てたある男性からの手紙だったが、それを読んだことでこの夫婦の間のただならぬ秘密を知ることになる。その手紙は、アレクサンドラ・ミハイロヴナへ向けた最後の別れの手紙だった。アレクサンドラ・ミハイロヴナはすでに結婚していたが、ある男と道ならぬ恋に陥り、それがたちまちのうちに世間の噂となり、アレクサンドラ・ミハイロヴナに向けて激しい非難が浴びせられた。 しかし夫はそれを知った上で男に手を引かせアレクサンドラ・ミハイロヴナの名誉を守ろうとしたらしい。文面からその男がアレクサンドラ・ミハイロヴナの窮地を救うために自ら身を引くことが書かれていた。ネートチカはこの重大な秘密を知って激しく動揺した。そして運悪く図書室でまたその手紙を読んでいるところをピョートル・アレクサンドロヴィッチに見つかってしまい、彼はネートチカからその手紙を引ったくって一瞬手紙に目を通した。ネートチカは必死で彼にしがみついてなんとか手紙を取り戻した。
しかし手紙をめぐる二人の争いはアレクサンドラ・ミハイロヴナのいる場所に引きずり出された。アレクサンドラ・ミハイロヴナの前でピョートル・アレクサンドロヴィッチはネートチカに手紙について詰め寄る。ネートチカは手紙のことが自分にも、さらには夫にも知られることになればアレクサンドラ・ミハイロヴナは破滅してしまうに違いないと必死で手紙のことを隠そうとする。 それに対してピョートル・アレクサンドロヴィッチは手紙のことを執拗に追及してくる。しかし、途中からピョートル・アレクサンドロヴィッチがこの手紙をネートチカの恋人からものと勘違いしているらしいことに気づく。そこで、ネートチカは夫に合わせるように、手紙は自分の恋人からの恋文であると嘘の自白をする。その結果なんとか秘密が暴かれることは避けられたのであるが、そこでの激しいやりとりによってもはや三人の関係は修復できないものとなっていた。 ネートチカは、その直後ピョートル・アレクサンドロヴィッチのところへ行き手紙を渡し、自分がこの手紙を読んだのは三年前のことで、それは自分への恋文ではなくアレクサンドラ・ミハイロヴナ宛ての手紙であることを伝える。夫の虚栄心と嫉妬に狂ったエゴイズムによりアレクサンドラ・ミハイロヴナがどれほど苦しんでいたか、それを夫に分からせるとともに自分はすっかりそれを見抜いていることを伝えるために。
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