戻 る




アルベール・カミュ『ペスト』(宮崎嶺雄訳 新潮社版)
作品についてあらすじ  

あらすじ
 主人公医師リューは決してヒロイズムの信奉者ではない。ごく普通の母親思いの愛妻家の医師であるが、ペストの感染が広がり、町全体に閉鎖命令が出されるなか、彼はごく当たり前のように自分の職務としてペスト患者の介抱に明け暮れる。
 やがて彼の周囲に進んで患者介護のボランティアの保健隊を引き受けようという男たちが現れる。タルーやグランやコタールという男たちである。それぞれに自分の中に個人的な不条理を抱え込んだ者たちでであった。
 加えて、地判事のオトン、そして司祭のパヌルーも、やがて保健隊に加わることになる。オトンは自分の息子がペストで亡くなってから、そしてパヌルーはその少年の死に様を自分の目で見たことにより、保健隊に加わることを決心するのである。
 そしてもうひとりが新聞記者のランベールであるが、彼はなんとかしてこの町から出て恋人役のいるパリに脱出したいと企むが、なかなかうまくいかず失意に陥っていたが、医師リューは愛する者に会いたいという彼の思いを認め、脱出を応援してくれていた。しかし、ランベールは、リューやタルーたちの保健隊の活動を間近に見ていて結局、自分もこに残って手伝うと言い出すのである。
 死に覆われたその閉鎖空間のなかで、もはや人々のエゴイズムさえ局限化され、連帯と協調の精神が支配するようになる。自分だけ助かる道が確かにみえるならば、エゴイズムは有効であろうが、その道がすでに閉ざされているとしたら、力を合わせて極限状態に立ち向かうしかないのである。
 カミュがこの作品でペストによって象徴させたかったのは第一には、ドイツによるフランスの占領という悲劇だったともいわれている。そして、自らも含めてそれに立ち上がったレジスタンスの人々、その連帯と協調の力にこそ未来を見ようとしたのだとも。

戻る          トップへ