作品について
『異邦人』を読み直してから、あらためて『ペスト』が読みたくなった。 これは、やはり凄い作品だ。出版されたのは1947年、戦後まもなくである。 ペストは、この作品ではある町を襲った伝染病であるが、それはまさにカミュの説くあらゆる不条理の象徴である。戦争、災害、犯罪、恐慌、侵略者による支配など政治的、社会的、経済的な不条理のすべてがペストに象徴されている。 それらはいやおうなく人々をして死に直面させるような不条理だ。そうした不条理の死を前にした時、人々はどのような行動を取るのだろうか。 ペストはこれまで戦争と同じように歴史的に何度も多くの死者をもたらしてきたし、その度に人々を不安と恐怖のどん底に陥れパニックを引き起こしてきたが、それでもその不安と恐怖に立ち向かってきた人々が少なからずいたことも事実である。 カミュは、この作品の主人公医師リューこそ不条理に立ち向かう人間としてこの作品で鮮やかに描いてみせたのである。なお、この作品は医師リューの手記という体裁をとっている。
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