あらすじ
主人公は、小さな船会社の事務員として働くごく平凡な青年だ。舞台は、アルジェリアのとある港町。主人公は年老いた母親と二人暮らしだったが、3年前に母親を養老院に預けた。養老院は彼が暮らしているアパートからバスで2時間以上もかかるので、ここ1年ほどは足が遠のいていた。 その母親が亡くなったのだ。今日が通夜で明日には埋葬されると養老院から連絡があり、彼は休暇を取ってその日の午後のバスで出掛けた。 通夜には養老院の仲間たちも来ていた。主人公はあまり口数が多い方ではなく、どちらかといえば無愛想で、通夜や埋葬の儀式に際しても涙を流すわけでもなく淡々とそれをこなしていた。通夜では居眠りもしたし、煙草も吸った。埋葬の時には、養老院の中で回りの者達が母親の許嫁と呼ばれていた老人も特別に参列が認められていた。 そんな相手がいたことも主人公は知らなかった。 埋葬が終わると主人公は家に戻ってきた。翌日が土曜日だったので、彼は海水浴に出かけ、そこでたまたま会社の元同僚のマリイという女性に再会する。二人は一緒に海で遊び、そのあと映画を見に行き、帰ってきて彼の部屋で彼女と寝た。彼はマリイを愛しているわけではなかったが、マリイと付き合いはじめた。 主人公には、アパートの隣人でちょっとヤクザ者のレエモンという知り合いがいた。レエモンは周りからいわゆる女のヒモだとか言われていたが、レエモンによると相手の女の方がレエモンから金を搾り取っているという。レエモンは、そこで女をとっちめてやるんだという。その女というのはアラビア系の女らしい。主人公は、レエモンにその女をおびき寄せるために手紙を書いて欲しいと頼まれ、手紙を書いてあげた。 それからしばらくしてアパートのレエモンの部屋で女とレエモンが激しく争い、警察沙汰となった。主人公が、女の方がレエモンを裏切ったのだ、と警察で証言してあげたので、レエモンは逮捕されずにすんだ。 レエモンからの誘いで、彼の友人の海辺の別荘で日曜日を一日過ごすことになった。マリイも同伴だった。ところが、その浜辺でレエモンたちはあの女の仲間のアラビア人たちにからまれ、レエモンはナイフで切りつけられた。レエモンがピストルを持っていたので、主人公はそれを使ったらまずいと考え、それは俺が預かるからとレエモンから取り上げた。一旦は、自分たちもそこから引き上げてきたのだが、戻ってしばらくして主人公はまたさっきの浜辺に戻り、アラビア人と遭遇し、咄嗟に主人公は手にしたピストルでその男を射殺してしまったのである。
第二部では、主人公の裁判の様子が詳しい描かれる。陪審員裁判で、検事は主人公が如何に冷淡で卑劣な男であるかを論じ続ける。母親を養老院に送ったこと、葬儀で涙一つ流さず、しかも通夜では居眠りもしたし、遺体のそばで煙草もふかしていたこと、さらには葬儀の翌日には海水浴に行き、そこで女と戯れ、映画を見たあとで、体を交えたこと、これらをいちいち取り上げこの男は人間性のかけらもない、だからこんな無慈悲な殺人行為ができるのだ、こんな人間は社会から抹殺しなければならない…評決は有罪で、広場での斬首刑であった。 死刑判決を受けて主人公は動揺する。死刑から逃れる道はないものか、死刑執行をすり抜ける方法はないのか、必死の生へのあがき…しかしやがて主人公はそれも所詮虚しいことだと悟る。人間いずれは死ぬのだ、どうあがいたところであと何年か先には必ず死ぬ、主人公には特赦請願の道も残されてはいたが、彼は御用司祭との面会も拒絶してしまう。しかし、司祭は執拗にやって来て彼のかたくなな心を開こうと試みる。主人公はとうとう堪忍袋の緒が切れて、司祭に食ってかかる。彼は説教を垂れようとする司祭に向かって、自分は自信を持っている、自分の生について、そして来たるべきあの死について、自分は自信を持っているのだ。自分はかつて正しかったし、いまも正しいのだ…。 しかし、それからさきはもう錯乱していたのかもしれない。うわごとのように彼は司祭に向かって言葉を吐きつづける。やがて、看守たちに主人公は取り押さえられ、司祭はそこをあとした。
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