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中上健次『枯木灘』(河出文庫)
作品についてあらすじ  

あらすじ
 この作品は、『火宅』『岬』に続く作者の家族をめぐる物語である。
 今回の作品では主人公(秋幸)の母親(フサ)が関わった男三人とその兄弟や子供たちすべてが登場している。最初の夫西村勝一郎との間に1男(郁男)3女(芳子、美恵、君子)をもうけたが、夫死別ののち、浜村龍造の間に秋幸を生んだ。その浜村はフサの妊娠中に博打で刑務所に入り、フサはその間に秋幸を生み、女手一人で前夫との間の子供と合わせて5人の子供を行商しながら育てていた。浜村が出所してからも父親となることを認めず、まもなく竹原繁蔵という子連れ(文昭)の男と結婚し、一番下の秋幸だけを連れて4人で暮らすようになった。
 他のフサの4人の子供たちは前の家でそのまま暮らしたが、中学を出るとまもなく芳子が名古屋へ、そして君子が大阪へ働きに出た。郁男と美恵が二年ほど一緒にいたが、やがて美恵は男と駆け落ちして家を出たので、郁男が一人で暮らすことになった。
 再婚した繁蔵には兄の仁一郎と弟の文造と姉のユキがいた。兄の仁一郎には実子の高志のほかに妾腹の徹がいた。仁一郎はすでに亡くなっている。弟の文造には養子洋一がいて、最近再婚した。
 一方、出所した浜村龍造はフサの他に同時期に二人の女を孕ませていて、フサに拒まれたので龍造はヨシエという若い女と結婚し、友一、秀雄、とみ子を設けている。もうひとりの女はかつて女郎をしていたキノエでさと子という娘を生んでいる。
 この小説ではすでに秋幸は26歳になっている。義兄の郁男は結局秋幸が12歳の時に24歳で自宅の木で首を吊って死んだ。芳子は名古屋で鉄工所の跡取り息子と結婚し、子供が二人、君子も大阪で結婚し、子供が二人いた。美恵は、17歳の時に実弘という男と駆け落ち結婚し、美智子という娘を生んだ。美恵は郁男が死んだあと実弘とその家で暮らしてきた。そして娘の美智子が16歳となり、妊娠して戻ってきた。相手の男は地元の不良少年だった五郎だ。
 美恵もフサも二人にキチンと結婚式を挙げさせようと考えている。ちょうどお盆に兄弟や子供たちも集まるからその時に祝言をあげようということになった。
 秋幸は繁蔵の息子文昭が親方をする土建屋で現場監督として徹と一緒に働いていた。
 秋幸は土方の仕事が好きだった。汗にまみれて体を動かしていると嫌なことも忘れ無心になれるような気がした。
 秋幸は紀子という材木商の娘と付き合っていた。しかし、親は秋幸が浜村龍造の息子であることを知っていて、結婚には反対していた。紀子はいっそ駆け落ちでもしようと誘うが秋幸はそこまでの決心もつかないでいた。その一方で、キノエの娘さと子が町のいかがわしい「弥生」という店で母親と一緒に体を売って暮らしているという噂があることは秋幸も知っていた。秋幸はその「弥生」でその女が自分の妹かもしれないと思いながらその女を買ったことがあった。女は自分が兄だとは知らなかったが、ある日美恵がその女が秋幸の妹のさと子だということを聞きつけて、そのさと子を連れて秋幸のところへやってきたのだった。さと子も秋幸が自分が寝た相手であることにすぐ気がついたようだった。
 秋幸にとって、さと子と寝ることは父浜村龍造を自分の手で凌辱してやることだった。しかし、浜村龍造はそんなことはへでもなかった。秋幸がそれを直接浜村龍造に伝えても、そんなことは構わん。アホな子供が生まれてきてもいいんじゃ、と取り合わない。そればかりか、浜村龍造はさと子とも寝ていたのだ。秋幸にとってその男は想像以上に手強かった。浜村龍造は秋幸たちの住む路地からあくどい手口で見晴らしの良い高台まで駆け上った男だった。火つけ、強盗まがいのことも平気でやる男だと噂されていた。秋幸は自分の中に半分その男の血が流れていることを憎んだ。
 盆がやってきた。地元では盆には死者を弔うために浜に出て精霊流しをする。フサをはじめ竹原の一族が集まった。その浜辺のすぐ近くに浜村龍造の一家もいた。秋幸は徹と一緒に浜村のところにも顔を出した。
 ムシャクシャして浜村に、おまえは盗っ人したり、人殺しした男じゃ、と言ってやった。父親の浜村を目の前で秋幸に散々侮辱された龍造の息子秀雄は突然激昂し秋幸に石をもって殴りかかつてきた。乱闘になり、結局秋幸はその場で秀雄を殺してしまったのであった。
 秋幸は、そのあとその場所から立ち去ったが、結局警察に自首した。
 浜村龍造は秀雄の葬儀が終わってから7日間部屋に一人籠もり、9月になって、ようやくまた動き出した。秋幸に面会に行ったという噂も立った。出てきたら一緒に仕事をやろうと言ったが秋幸に断られたとも、秋幸が頷いたとも、噂が乱れ飛んでいた。
 路地のみんなは秋幸がいなくなったのを寂しがっていた。美智子が娘を生んだ。紀子がフサのところに来て、お腹に子供がいた、でも会ったら辛いから警察には行けないと言った。
 文昭と徹はまた土方仕事に戻った。フサも美恵も気丈に振る舞っていた。徹は相変わらず白痴の娘を相手に淫行に耽っているようだった。

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