戻 る



                           


白石一文『もしも、私があなただったら』(光文社)
作品について |あらすじ  

作品について
 二〇〇六年四月十四日刊行。書き下ろし作品。二〇〇八年七月文庫化。
 単行本の表紙裏に、作者の次のような言葉がある。
 
 小説を書く時に最も大切にしているのは「人はたえず『おのれとは何者か』と自らに問いかけるべきである。そしてこの偉大な問い以外の考えをきびしく排除すべきである。そうすれば自己の中心にある深遠な存在に必ず気づくことができる」という言葉。

 「おのれとは何者か」という問いかけは、この作品では、「もしも、私があなただったら」という形で、登場人物の一人美奈の言葉として表現される。美奈は、主人公藤川啓吾の会社の同僚で最も親しかった男の妻である。その妻からかつて啓吾は「一目で藤川さんのことが好きになりました」と書いた紙片を受け取り、彼女の夫に隠れて二度デートしたこともあった。しかし、彼女を抱いたことはなかった。
 啓吾は、それからほどなく退職して郷里の博多に引き上げることになるのだが、啓吾が東京を去る日、美奈は羽田に見送りに来て、一緒に連れて行ってください、と言ったのだ。
 啓吾は、きっぱりと拒絶した。その時に、美奈が言った言葉が、「もしも、私があなただったら・・・」という言葉であった。
 主人公は、藤川啓吾(ふじかわけいご)、四十九歳。その言葉を美奈から聞いたのは、六年前の四十三歳の時だ。その時、美奈は三十七歳。それから六年が経ち、二人は再び出会う。美奈も四十三歳になっている。
 この作品は、いわゆる「大人の恋愛小説」との触れ込みである。中年男女の恋愛であるが、美奈という女性は、なかなかストレートな愛情表現をする。自分の中にある「深遠な存在」にひたむきに向かいあおうとしているのだろうか。


戻る          あらすじへ