あらすじ
主人公は芹川進。十六歳、中学四年生、一高の受験を目指して勉強している。兄と姉がいる。姉はまもなく結婚する。父親はすでになくなり、母親は父親が亡くなってまもなく脊椎カリエスで倒れ、10年も前から寝たきりである。兄は4年前に帝大に入り、現在は小説を書いている。芹川進は、中学生活には嫌気がさしていたので、もし受験にしても中学には戻らず、大学の予科にでも入ろうと考えていた。 一高は不合格だったが、私立のR大学には合格できた。一高受験に失敗したあと進は兄から将来の進路を決定づける助言を受ける。兄は弟の日記を読んでいたのだ。ずばり映画俳優だと言われ、自分も応援するから10年は頑張って修行してみたらどうか、と言われ、進は決心が固まった。 そのためにも大学にはとりあえず入っておけ、そのうちに演劇方面でなにか力になってくれる人を紹介してやるから、と言われた。その機会は意外と早くやってきた。兄は進を文学の師匠に引き合わせ、有名な演出家への紹介状を書いてもらうことになったのだ。 その斎藤先生のところへ紹介状を持って行ったがなかなか会えず、やっと会えてもろくに話はできなっかた。ただ鴎座で研究生を募集していると教えてくれたので、進はそれに応募し入団テストを受ける。しかし、そのテストで進はその劇団に違和感を感じた。なんだか入って頑張れる気がしないと兄に相談するとそれならもう一度斎藤先生に思い切ってその気持ちを打ち明けてみたらと言われた。 まもなく鴎座から合格通知が届いた。兄の助言に従って進は斎藤先生に、鴎座に合格したが、なんだか自分には合わない、迷っていると手紙を書いた。斎藤先生の返事を聞きに訪ねると、今度は「春秋座」とだけ書いた紙をくれたが、テストは自分だけの力でやれと一喝された。 春秋座の入団テストは厳しいものだったが、見事に合格を果たした。応募者は六百名もあったが、合格できたのはたったの二名だった。進は、こうして演劇人としての一歩を踏み出し、やがて正式な団員となり、春秋座の主要団員として活躍していくことになる。
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